画鬼、河鍋暁斎の鬼気とユーモア

鬼といったらこの絵でしょう。「画鬼」の異名を持つ河鍋暁斎が描いた「文昌星之図」です。

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この絵は「魁」という漢字を意識して書かれたものだそうです。「魁」という文字、ばらしてみると足がびよんと伸びた「鬼」と「斗」で構成されています。

暁斎は「魁」を躍動感のある鬼の姿と升(≒斗)で表現しました。発想自体は「漢字を絵で表現してみた」という極めてシンプルなものですが、絵の出来栄えは格別です。筆を持った右手から升を持った左手のラインが北斗七星を模したものになっており、北斗七星からの連想で文学の神様である「文昌星」の名前がタイトルになっています。

ちなみに、鬼の姿を見てみると、きちんと虎の腰巻を着ています。鬼のパンツは昔から虎と決まっていました(これには鬼が出入りするとされる方角=鬼門=北東が丑と寅の中間に位置していることが関係しているそうです)。画面は緊張感漂っているものになっていますが、虎の頭部の腰巻をわざわざ着させているところにユーモアを感じます。

さて、そんな河鍋暁斎の作品ですが、調べてみるとパブリックドメイン入りしており、インターネットで無料で見れてしまうようです。びっくり。

600dpi.net

先ほど紹介した「文昌星之図」も上のリンクから確認できます。

興味のある方は一つ一つの絵をじっくりと鑑賞していただければよいのですが、その中でユーモラスに感じた絵をいくつか紹介します。

惺々狂斎画帖三

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でっかい化けねことそれを見て怖がる男二人が描かれています。人間を見ても全く動じない化けねこの冷静さと体全体で感情を表現している男たちとの対比が面白いです。

特に腰をのけぞらせてびっくりしている男のポーズは秀逸です。人生に一度でいいからこんな驚きかたをしてみたいものです。若干、嬉しそうに見えるのは気のせいでしょうか。

化けねこは人間を脅かしているのか、それともちょっとかまってほしいだけなのか。振り上げた前右足が次の瞬間どうなるのだろうかと想像してしまいます。

金魚と遊ぶ小童図 

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主題となっているのは桶の中で泳ぐ金魚で戯れる小さな子供たち。子供2人は金魚を手で掬おうと夢中になっています。

そんなメインのストーリーとは別に、子供たちの後ろでもう一つの物語が展開されています。それはかめの脱出劇。木に縛り付けられたかめが隙を見計らって逃げ出そうと必死になっています。二本足でかめが立っている姿が怪獣みたいでとても印象的です。

紐を解いて逃げ出せたとしても、足の鈍いかめのことですからきっとすぐに追いつかれてしまうにきまっています。

猫又と狸

河鍋暁斎 – 鳥獣戯画 猫又と狸 (画鬼・暁斎 KYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドルより) パブリックドメイン画像

ねこまた、たぬき、いたち、もぐら……様々な動物が思い思いにハッスルしています。説明不要で見ているだけで面白い。

ボディビルダーみたいなポーズをしているたぬきがかわいいです。目つきが鋭くてちょっと男前風に描かれています。周辺に描かれているもこもこは何なのでしょう。体を洗っている……のではなさそうですが。

ねこまたは妖怪らしく赤いちゃんちゃんこを着ています。顔をこわばらせて威嚇しているのですが、ちゃんちゃんこと片足立ちのせいでどこか間抜けな感じがします。

ねこまた、ばけたぬき、かまいたち……は妖怪つながりでわかるのですが、もぐらがいるのはなぜ? 普段土の中にいて滅多に見られないから存在自体が妖怪みたいなもんだったんでしょうか。

ちなみに、この絵は本来縦長の絵で、この画像では見られませんが、たぬきとねこまたの上に木にぶら下がったねずみが描かれているそうです。なんでもたぬきとねこまたの顔を月あかりで照らしているのだとか。だとすると、これは妖怪たちが上映している劇のワンシーンなのでしょうか。謎は深まるばかりです。

 

というわけで画鬼、河鍋暁斎のちょっとユーモラスな絵の紹介でした。

今週のお題「鬼」