争点のない都知事選 ~2024年東京都知事選挙についての感想~

2024年7月7日に行われた東京都知事選の感想について遅まきながら書いていきます

東京都に住民票を移してから初めての都知事選になるので「テレビで見ていたあのイベントについに参加できる!」と期待していた今回の選挙ですが、蓋を開けてみれば盛り上がりに欠けるなんとも言えない微妙な選挙になったというのが率直な感想です

1位当選を果たしたのは現職である小池百合子氏。獲得票数は2,918,015。2位の石丸伸二候補から100万票以上の差をつけて当選しました。妥当な結果だと思います

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それに続くのが、2位の石丸伸二氏。選挙開始時は2位が蓮舫氏になるとの予想が大半だったことからすると大健闘です

3位は蓮舫氏。予想より票数が伸びませんでした。原因は色々あると思いますが、傍から見ていると「迷走していた」印象です

その後は、田母神俊雄氏、安野貴博氏、内海聡氏、ひまそらあかね氏...と続きます。ただし、3位から4位以下の候補者の票数には大きな差があり、実質的に首位争いをしていたのは1~3位までの候補だと言えるでしょう

終わってみると、今回の東京都知事選の争点となったのはどのような点なのかイマイチわかりません。争点がなかったゆえに「変わる必要がない=現職の小池百合子氏」が選ばれたのでしょう。その他の候補の獲得票数に関しても、政策に共感したというよりも「この人が好き」という感情的な理由が主だったんじゃないかと思います。東京都知事選挙が「単なる人気投票」と言われるゆえんがわかりました

各候補者の印象について書いていきます

小池百合子氏

彼女は選挙中、何もしていなかったというのが自分の見解です。とりあえず必要最低限の選挙活動を行い、落選の危機もなく、ぬるっと当選しました。一番コスパのいい選挙活動を展開したのが彼女でしょう

選挙開始当時は学歴詐称問題がやり玉にあげられていました。疑わしい……という意見があるのはわかるのですが、カイロ大学が認めている以上さらに追求しても不毛なだけです。そもそも「カイロ大学卒業していないからなんやねん」という話でもあります

後半は都庁のプロジェクションマッピング問題で批判されていました。確かに予算が多すぎる気はするものの、些末な問題に思えました。あのプロジェクションマッピングがしょぼいのは確かです

小池百合子氏自身の主張は「首都防衛」でした。ちょっと前に東京防災ブックが自宅に届きましたが、選挙のための伏線だったのでしょう。防災を重視することは重要だと考えるので好印象です。公約として現実的だとも思います

当選した以上、東京都のさらなる発展に向けて頑張ってほしい、というのが自分の思いです

石丸伸二氏

安芸高田市の市長職を辞して東京都知事選に鳴り物入りで参加を表明したニューカマーです。爽やかな外見と物事をすぱっと切るような口調が彼の魅力です

「何をしたいのか」が置き去りされたまま「何だか変えてくれそう」という彼の雰囲気が独走していたように思います。自分は最初の方に「東京を弱体化する」ような発言をしていることを知ってこの候補に入れることはやめようと思いました。都知事が東京のために働かないなら誰が東京のことを考えてくれるのでしょうか

選挙後に彼のインタビューの動画が拡散されて「石丸構文」なるバズワードが生み出されました。確かに要領を得ない受け答えでしたが、ネットのおもちゃにされるほど悪いことをしたようには思えません

今後、国政に進出すると噂されています。このあとの動きが気になる人物です

蓮舫氏

ここがだめだった、という点を挙げようとすれば枚挙にいとまがないほど酷い選挙戦でした。まず、共産党に近づきすぎて東京連合の支援を失った点が致命的でした。その後も方向を改めず、共産党が主に主張している「神宮外苑再開発」を争点にしようとした点もマイナスです。こんなの共産党の関係者以外、誰も興味ないです。地元の人ですらどうでもいいと思っているのではないかと思うレベルです

良い点は……演説が上手かった点とかでしょうか。声を張り上げてにこやかに演説する姿は映像として見栄えがよかったです。しかし、主張の中身がないので心には響きにくい感じ

蓮舫氏のようなパフォーマンスが得意な政治家は後ろに優秀なブレーンが就いて初めて真価を発揮する人物じゃないでしょうか。その意味で、蓮舫氏の選挙戦略を考えた人が大きく選択を誤ったのだと思います

田母神俊雄氏

選挙戦を通じて印象が良くなった候補の一人です。2016年の都知事選で公職選挙法違反で逮捕されてしまったことと陰謀論じみた言説が目立って取り上げられてしまったことが大きくマイナスとなってスタートしました

元自衛官だということもあって公約の一つに「防衛」を掲げています。ここが小池百合子氏と被ってしまったのも不運でした

ただし、メディアとのインタビューを見てみると簡潔な受け答えができていて、好印象でした。ちょっと過激な保守政策を掲げるおじいちゃん、といったところでしょうか

安野貴博氏

自分はこの候補に投票しました。IT業界にいる身としては東大松尾研出身というだけで気になる候補です

「ブロードリスニング」という概念がよいです。公開されているGithubのリポジトリを利用して誰でも意見を届けることができるようにしたうえで様々な意見を考慮してマニフェストが作成されています。結果的に今回の候補者の中で一番緻密なマニュフェストを提示できたのが彼ではないでしょうか

github.com

地に足をつけた選挙運動をしていたのも好感でした。彼は東京中を練り周り、街頭演説を行っています。演説の中では他候補の批判や国政への不満などネガティブな要素はなく、自分が何をしたいのかを真面目に訴えていました。

結果、下馬評を大きく覆して15万票超を獲得して5位に落ち着きました。快挙と言えるでしょう

一つマイナス点をあげるとすれば、彼の人気も石丸伸二候補と同じように「ふわっとした」支持であることは間違いないという点です。要するに「なんとなく好印象」という人物であり、実際に政治的な適性があるかどうかは政治経験のある石丸伸二候補以上に未知数です。「AI活用」というワードも現時点で言えば「ふわっとした」流行りの言葉に近いです。ChatGPTが話題になりましたが、業務として取り入れている企業はそこまで多くないのではと思います。それに非効率でも公平性や正確性、検証可能性が求められる行政業務と正確性は担保しないが効率的に結果を出すAIは相性がよくない気もします

今回の選挙では「彼の実績」ではなく「彼の可能性」に投票した人が多いんじゃないでしょうか。その意味では一歩道を踏み外せば積み上げてみたものがすべて崩れてしまう危うさがあります

地道な選挙活動が功を奏した人物です。時間が彼を評価していくのではと期待を込めて書いておきます

内海聡氏

選挙戦を通じて印象が良くなった候補その2です。反ワクのお医者さん、という印象を持っていたので「どうせ陰謀論者だろ」と思って政見放送を見てみたら、やっぱり陰謀論者でした

投薬治療に終始する精神科医療に疑問を持ち、その後、医療業界そのものに不信を抱くようになったというのが彼のこれまでの経緯です。陰謀論界隈の人と交わるにつれていろいろな陰謀論を吸収して、「陰謀論者の王」に成長したという感じではないでしょうか

主張そのものはほぼすべて同意できないのですが、彼を取り巻く人々の温かさは評価できます。動画のコメント欄を見てみると「うつみん頑張れ!」「感動しました!」といった前向きなコメントが多く見られます。インターネットの言論空間は基本殺伐としていますが、あそこだけ優しめでなんかほっこりしました。支持者の質がよいですね。その人達も陰謀論者なんでしょうけど

陰謀論者には他者を批判しまくって迷惑かけまくる類のものがいますが、内海聡さんはそうではなく(批判することはあるものの)穏やかな人物です。内海聡さんが陰謀論者たちを囲い込んで「間違ってる人間にも優しい温かい空間」を作ってくれることを願います

ひまそらあかね氏

出馬するまで一切その予兆を見せず、サプライズ的に出馬を表明したインフルエンサーです

Xで人気を博しており、いわゆるColabo問題に対する追求で知名度を獲得した人物です

X上での彼の人気は高く(少なくとも自分にはそう見えました)、一体どれくらい票を獲得するんだろうと思っていましたが、結果は11万票。自分としては「こんなに獲れるのか!」という票数でしたが、当選にはまだまだ遠い票数でした

Xやyoutubeを使用していない人にとっては「この人誰だ?」という感じの候補でしょう。彼の言動や活動内容からして高齢者の票や女性票などを多く取ることは厳しかったようです。SNSの一部の空間ではなく選挙権を持っている人々全体を見渡してみるとこの順位に落ち着いたのは順当と言えます

 

総括

「敵を作り、それを叩くことで人気を得る」というやり方を複数の候補が行っていました。しかし、東京都民が求めているのはそのような攻撃的なリーダーではなく未来に向けた建設的な議論を提案できる前向きなリーダーなのではないかと感じた選挙戦でした