千葉でキョンが増えています
千葉出身の自分としては10年ぐらい前からキョンの問題を聞かされていたのですが、最近改めてニュースになりました
キョンとは中型犬ぐらいの大きさの鹿っぽい生き物で、元々は中国の南東部や台湾に住んでいた生き物です
このキョンが千葉の南側の方で増えています。ずっと前から増えているのですが、減りません。なんででしょう?
「なんででしょう?」と問いを投げかけて即答するのですが、たぶん、この問題、危機感にかけるんです。全国各地で熊が出没するだの、歌舞伎町でねずみが大量発生しているだの、そういった問題に比べてキョンの問題ってのどかに見えるんですよね
熊が人里に出てくれば襲われる人が出ます。死人が出れば大事になります。ネズミが大量発生すれば病気が広がります。病人が増えれば大事になります
じゃあ、キョンは?
キョンは千葉で片っ端から草食って、変な声でわめきちらして、糞尿を撒き散らしたのちに車か電車に衝突して死にます
……まぁ、悪いっちゃ悪いんですが、なんかしょぼく感じるんですよね。その証拠(?)に上の動画でインタビューに答えている住民たちも怒っているというより、「仕方ないなぁ」みたいな雰囲気で喋っていますし
というわけでキョン問題についてなぜ深刻に扱われないのか考えてみます
1.「キョン」という名前
まず、キョンっていう名前がこの問題の深刻さを軽減させています。動物の名前というより人物のあだ名みたいですよね。ちなみに専用の漢字があり、漢字では「羗」と書きます
SNSで「キョン」を検索すると当然のように「涼宮ハルヒ」シリーズの主人公の「キョン」が出てきます
女優の深田恭子さんの愛称は「深キョン」でした。きょんというお笑い芸人もいます
そんな状態だから「キョンを根絶やしにしろ!」という主張をしても、大喜利大会みたいな状態になってしまって議論に凄みがでないのです
そもそも、「キョン」という名前が聞き慣れないもののため、「キョンがさー」と話題を出すと「キョンって何?」と聞き返され、スマホでキョンの画像を見せるとそれなりに可愛い動物なので「かわいいー」という返しが来て、出鼻をくじかれます。この流れでキョンを殺す話をすると異常者のように見られます
千葉県はまずキョン対策としてキョンのことをキョンではなく「ドドブランゴ」とか「ババコンガ」みたいな殺されても仕方ないような名前で呼ぶようにキャンペーンを行うべきですね
2.なんか可愛い
イノシシとかクマとは違って、野生の動物にしては小綺麗な見た目してますよね、キョン。つぶらな目が印象的ですし、40cm~70cmの大きさもちょうどいいです。唯一のマイナスポイントは目の近くにある臭腺がキモいことぐらいでしょうか
見た目というのは害獣かどうか認定されるために非常に重要な要素で、例えばみんな大嫌いなゴキブリとかナメクジは実際には大して有害ではないのに見た目が良くないために殺されても仕方ないみたいな雰囲気を放っています。実際ゴキブリを殺している人を見かけてもその人に対して「残忍だ」と思う人はいないでしょう
しかし、キョンに関しては事情が異なります
写真の動物を見て「こいつは危険だ! 殺そう!」と思いますか? 直接危害を加えられるのでなければ放っておいても良さそうな見た目をしています。実際、キョンは車に体当たりして自滅することはあれど人に襲いかかることはしません。動物園にいたら、しばらく草食ってる姿を眺めていたい感じです
なので、キョンを駆除する人もゴキブリ退治とは異なった感情を抱くはずです。今まで殺してきたゴキブリの最後を覚えている人は皆無でしょうが、キョンの最後の姿が頭から離れない猟師さんはいるのではないでしょうか
キョンは死ぬ間際に哀れっぽい鳴き声で鳴いて命乞いをするそうです。キョンを退治するためにはキョンを罠にかけて至近距離で致命傷を与える必要があります。命乞いする犬みたいな鹿を殺すのは流石に心にくるものがあるはずです。それを嫌ってかキョンを駆除したがらない猟師さんもいるみたいです。キョンは見た目が9割。厄介な話です
3.千葉南部という絶妙な繁殖地域
キョンが繁殖しはじめた地域は千葉の南東部です。具体的にはいすみ市とか勝浦市とかなのですが、千葉県出身の自分からしてみるとこれは「絶妙」なチョイスです
千葉というのは東京のベッドタウンとして機能している北西部とそれ以外に分かれます。千葉が首都圏と呼ばれる場合は、ほとんどの人が千葉の北西部、よくて千葉市あたりまでのことを想定して首都圏と呼んでいます
それらの「首都圏」と真逆の方向にある千葉の南東部はいわば忘れられた地域であって、近いけど見えない盲点のような場所なのです
千葉県のキョン対策が遅れたのにこの地理的要因が絡んでいるのはまず間違いないと思います。いすみ市とか勝浦あたりの問題は、千葉県全体としてはあんまり重要な問題に思えなかったんじゃないでしょうか
キョンの繁殖が始まったのが千葉の北西部だったり、関東の別の地域だったりしたら、駆除はスムーズに進んだでしょう。でも、千葉の南東部は残念ながら「ま、いっか」って感じの地域なのです。キョンといえども要するに鹿問題ですしね。鹿はシカトってわけです
そもそも千葉の南側は気候が温暖で、食べ物となる草もいっぱい生えているのでキョンみたいな草ハミハミ系アニマルにとっては天国です。千葉に生息する大型動物はイノシシ止まりなので天敵となる存在もいません
あそこらへんが田舎なのは地理的条件が悪くて人が住みづらいからではなく、単純に行き止まりだからです。千葉の南に行くときは千葉の南に行くしかありません。一番南まで行くと待っているのは犬吠埼と太平洋。わざわざ観光のために千葉の南部に行くぐらいだったら東京に行きますし、田舎を味わいたかったら千葉の南部は物足りなさ過ぎます
なので自然条件は全然悪くないのに天敵(≒人)が少ないという野生動物にとって願ってもない環境が待っています。キョンが爆発的な増殖を遂げたのもその地理的要因と無縁ではないはずです
というわけでキョン問題がいまいち危機感に欠ける理由を解説しました
千葉県による「第1次千葉県キョン防除実施計画」は見事に失敗し、キョンは生息数を増やしながら北上中です。2023年の時点で7万頭はいる試算らしいです。正直、ここまで増えると根絶させることは不可能ですね
不幸中の幸いなのは、キョンが発生したのが千葉県だということです。千葉は本州の中で他の県から微妙に隔離されている地域です。茨城県、埼玉県との県界は利根川、東京都との県界は江戸川が流れていて行き来が困難です
なので県内での繁殖地域を減らすことは困難でも、県外に出さないことは可能なのではないでしょうか。橋を渡らせないようにすればよいですからね。総武線の小岩とか新小岩駅あたりに「見つけ次第殺せ!」と書かれたでっかいキョンの広告を出せば、人々の認知度も上がる……はずです。念のためアクアラインにも広告出しましょうかね。こっちの場合は「轢き殺せ!」です
キョン問題が解決することは……ないでしょう
そのうち千葉の名物みたいになってチーバくんがキョン化する未来もありえます。千葉県が頑張るべきは最終防衛ラインである利根川と江戸川を突破されないようにすることですね
頑張れ、千葉! 頑張るな、キョン!