ベーシックインカムの夢が終わりつつある今現在

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「ベーシックインカム」は一時期巷を騒がせた社会保障制度の案です

ざっくりと内容を説明すると生きていくのに必要なだけのお金を国民全員に給付すれば貧困で不幸になる人はいなくなるし、既存の複雑怪奇な社会保障制度もいらなくなるよね、という単純な発想に基づく制度です

ベーシックインカムの導入には様々な利点があるとされており、例えば生活保護を受給すべきなのにできていない人がすべて救われるとか、働きたくない場合に働かないで生きる選択肢が広がるとか、最低限のセーフティーネットが保障されることによって社会全体に安心感が生まれるとか言われています。何もしていないのにお金がもらえるのだからちょっと聞いただけでは夢みたいな制度に聞こえるわけですが……

Googleトレンドで「ベーシックインカム」の検索数を調べて見ると、2017年の10月ごろに一気に話題になり、その後、新型コロナウイルスのパンデミックがおきた2020年の4月ごとにまた話題として浮上しています

しかし、2024年4月現在、ベーシックインカムの話題はダウントレンドになっているように見えます。実際、ベーシックインカムを政策として掲げていた日本維新の会が、政策見直しの一環で支給金額の見直しを検討するなどと報道もあり、始まる機運すらないのに前途多難な感じになっています

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日本維新の会の馬場代表は、主要政策の1つで、国民に無条件で一定額を支給する社会保障政策「ベーシックインカム」について、財源の確保に課題があるため、段階的な導入や支給金額の見直しなどを検討していることを明らかにしました。

日本維新の会は、主要政策の1つとして「ベーシックインカム」を掲げ、すべての国民に無条件で1人当たり月に6万円から10万円を支給することにしていますが、年間およそ100兆円が必要になることから、財源の確保が課題となっています。

ベーシックインカム制度の致命的な欠点は「財源の確保が難しい」の一点につきます。石油が地面から湯水のように湧いてきてお金が有り余っているような国ならいざ知らず、経済の縮小を余儀なくされているような今の日本にとって国民全員に配るお金を用意するのは難しいと言えます

年間100兆円の予算を安定的に用意するとなると、普通に考えて増税しかないのですが、「国民全員にお金を配るために増税する」というやり方自体矛盾しているような気がします。そんなことするぐらいだったらはじめから配らなくていいのでは、と誰もが思うはずですね。徴税と配布のコストがかかる分、集められた税金がすべてベーシックインカムの配当金として配られるわけではないですから、最初から集めないほうがコストはかからないはずです

税金の集め方によっては増税の範囲を最小にして配ることができるという意見もあります。具体的には所得税の累進課税率を上げたり、相続税を極端に上げてお金持ちから税金を取るというやり方です。こうすれば、損するのはお金を持っている人だけだから庶民には影響がなさそうに見えます。ただし、はたしてそれだけで財源を確保できるのかどうかという問題と、安定的な財源になるのかという問題がつきまといます。これを行うためには財源として富裕層の所得を維持しなければならないわけですが、富裕層に負担をかけすぎると単純に富裕層の資産が目減りする他、日本から海外に資産を移そうとする機運が高まる原因となります

ベーシックインカムは年金制度と同じで導入されたあと、「継続が難しくなったから」と言ってやめることができない制度です。理由は簡単で「いつやめるかわかりませんが、お金を配ります」だと社会保障として不完全だからです。「いつかは給付が終わる10万円を当てにして生きる」のは賃金労働をして生きるのとなにか違いがあるのでしょうか。ベーシックインカムは少なくとも10年、20年単位で運用が継続されていることが前提となるわけです

となれば富裕層から財源の確保が難しくなった場合、負担は準富裕層に向きます。そして、準富裕層から搾り取れなくなったら次は中間層へと……。財源を安定的にしようとすればするほど究極的には人口に連動する「人頭税」に近づいていきます。「1人あたり〇〇円徴収」のサブスク方式が一番簡単に収入を予測できる方式だからです。「消費税」なんかはその方式に近い税金なので安定した財源だと言われるわけです。すべての人にお金を配るためにすべての人からお金を集めるなんてのは自分で掘った穴を埋めるという作業を繰り返す刑務作業と何ら変わりがありません

もちろん、増税をしなくとも現在の歳出を見直して財源を確保するという方式もあります。

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2024年度の日本の予算の歳出は112兆円。ここから100兆円分節約すればよいのですから、とっても簡単ですね(笑)

これを実現するには90%近くの予算を削減しなければいけません。できたらすごいっちゃすごいのですが、それができるなら今まで何をしていたんだ……? というお話にもなります

当然、必要な分のサービスを打ち切れば、今まで他のサービスとして提供されていた社会保障がベーシックインカムの配当金に置き換わるだけです。国民健康保険のサービスがなくなれば、その分がベーシックインカムとして配当できるお金に変わりますが、医療費の負担は3割から10割に跳ね上がります。健康な人にとっては全く問題ないかもしれませんが、病気にかかっていたり、健康に不安がある人にとってはむしろ負担が増大することになります

増税を行わずに予算の見直しで財源を確保する場合は、総量としての予算が増大しない以上、ベーシックインカムを導入しても国民の財が増えるわけではないのです

ちなみにですが、ベーシックインカムと一口に言っても「社会保障制度の拡充」として言っているのか「社会保障の一本化」として言っているのか2つのパターンがあります。後者は既存の年金や医療保険、生活保護を撤廃する代わりに社会保障をベーシックインカムのみにしようという魂胆のものです。この場合、社会保障に費やす事務コストが少なくなり、制度が運用が容易になる代わりに弱者に厳しく、強者に優しい社会が生まれます。重い持病や障害を持った人はただでさえ通院費や生活費にプラスαでお金がかかるのに支給されるのは他と同じ金額なわけですから相対的に経済的に不利な状況に陥るのです。社会保障というのは多いところから少ないところへ富の再分配を行うはずのものですが、多いところ少ないところすべてに配分するという平等だけど不公平な方式をとることによって社会保障制度によって格差が助長されるという本末転倒な状態になります

増税、歳出見直しに続く財源確保の第三の方法として挙げられるのは「国債」です。一昔前は「国の借金」として否定的に捉えられることの多かった国債ですが、最近は国債を発行しまくればウハウハという積極的な意見も聞こえるようになりました。最終的には「何のために何に使うか」が重要なのではないかと思います

利息付きの債務である国債は長期的にお金を確保するための方法として向いていない、という大前提はともかくとして、国債をベーシックインカムの財源として使用することにしましょう

利回りが低い日本国債の特性上、国内外の投資家から日本国債が一気に買われるという事情は起きにくいでしょう。となると、「日本銀行が日本国債を購入する」といういつものパターンになります

日本銀行が多額の国債を購入した場合、通貨を発行してその額を補填します。そうすると市場全体に流通する日本円の量が増大するわけですから相対的な日本円の価値が低下します。対外的には円安、国内では物価が上昇しインフレーションが起きるわけです

一時的な財源であれば、インフレがおきた後に緊縮政策を行って市場のお金を少なくすればよいでしょう。しかし、ベーシックインカムのためのお金だとそれができません

なぜなら、次の年も、その次の年も前年度とほぼ同額の国債を発行することを運命づけられているからです

こうなると、インフレを止めるための政策を打つことが難しくなっていきます。車でいえばブレーキが壊れたままアクセルを踏みっぱなしにしているような状態で、経済全体がいつ崩壊するかわからなくなっていきます。当初は月10万円で最低限の生活ができていたとしても、物価の高騰が起きれば額面に対する購入できる物の価値は減っていくわけですから、10万円では満足のいく生活はできなくなるかもしれません

この場合、国民の生活を守るためにベーシックインカムの配当金を増やすか、日本円の価値を守るために国債発行を制限してベーシックインカムの配当金を減らすか、どちらを選択すればよいのでしょうか。国民からの支持を失えば政府は運営できないのですから前者を選ぶしかないのですが、そうすれば遠くない未来に決定的な破滅が待ち受けることになります。被害を最小限に抑えるためには目先の被害者にとらわれずに大きな視点をもって経済の立て直しを優先したほうがよいはずなんですけどね……

長くなってしまいましたが、要するにベーシックインカムは財源を捻出するのが非常に難しいのです。ベーシックインカムに利点があることは明らかですが、それが数十兆という膨大な国家予算に見合ったものなのか不明です

加えて、ベーシックインカム制度は後戻りができないという点で経済の柔軟性を損ねます。10年後、20年後の経済がどうなっているか、予想できますか? 今から20年前の2004年、10年前の2014年に現在の経済状況が予測できていた人はいるのでしょうか。ベーシックインカムが導入されたら、その後何十年にもわたり社会保障の予算が削減できない予算として計上されつづけるのです。2034年にも2044年の世界情勢、経済状況がどんな状態になっても変わらず予算が存在する。それは長期ローンを組んで一軒家を購入することに似ています。一軒家を購入してしまったら、住居を移動することも仕事を辞めることも難しくなります。同じように、ベーシックインカムを始めたら、止めることもその分の金を別の予算に割り当てることもできなくなるのです

書きたいことは色々ありますが、「働かなくてもお金がもらえる」という夢のような制度は以下のような現実的な意見によって否定されるわけです

「お金はどうするの!?」