我妻佳祐さんが執筆した『金融地獄を生き抜け: 世界一簡単なお金リテラシーこれだけ』という新書を読みました
この本は金融庁に勤めていた京都大学数学科出身の我妻さんが、「何に投資したらわからない」という投資のいろはがわからない人もわかりやすいよう投資について書いた本です
推薦文を書いている橘玲さん(この人が帯書いているので買いました)によると『金融庁のお役人の「本音」がすべて書かれた"真っ当"なスキャンダル本!』とのことですが、内容は「スキャンダラス」というよりは「真っ当」の方に振り切っています。投資の定石を教えてくれる本です
数学科出身の方が書いた本ですから複雑な数式を用いて、最近話題の石破茂さんみたいにねっとりと投資を語り尽くすのかと心配される方もいるかもしれませんが、そういうタイプの本ではありません。我妻さんの主張は極めて明確です
それは「投資は、インデックス投資信託だけやっていれば十分で、ほかはやらなくてよい」という主張です。日経225やS&P500、あるいはそれらを組み合わせている全世界株式などの指数に連動する投資信託を買って、ずっと放置していれば勝手に儲かるというのです
我妻さんの主張はほぼそれのみです。本当にそれだけなのでネタバレみたいで恐縮ですが、本当にそのことがこの一冊をわたって繰り返し主張されています
複数の人が「インデックス投資信託に投資しろ」と言っているのを知っているので、たぶんこれが今の時代の「最も賢い」投資なのでしょう。「最も賢」くて「最も楽」なのだから、この選択一択です。少なくとも年利5%は平均で増やせる試算みたいです。すごくない?
この本は不動産投資やFX、仮想通貨や保険などのその他の金融商品についても概論的な内容が述べられていますが、結論はかわらず「インデックス投資信託」。潔いです
終いにはインデックス投資を大乗仏教に例えるような描写も出てきます。他力本願で皆極楽浄土に行けるという浄土系の仏教の教えとインデックス投資の類似点を指摘し、何もしなくても資産増えるよ、安全だよ、と繰り返し主張しています
堅苦しい本ではなく、語り口は非常に柔らかです。漫画『インベスターZ』や『FX戦士くるみちゃん』などの軟派な話題も出してわかりやすく解説してくれているのでありがたいです
我妻さんの得意分野は本来「保険」らしく、保険についての解説は我妻さんならではのユニークな視点が述べられています。曰く、「保険に入るなら共済にしておけ」とのこと
自分はそもそも「保険に入らない」と決めているクチなので、共済にも入る気はないです。保険と仕組債って何が違うんでしょうか? 複雑な条件を設けて、大多数の加入者が儲からないようにしているという点で同じだと思います。貧者の税金ならぬ心配性の税金ですね
我妻さんによる日本の保険会社に対する面白い指摘が以下です
諸外国では、保険会社が国民に損害を与えそうな状況になるとまだ資金に余裕のあるうちに保険会社を潰すのが常識的な対応ですが、日本では保険会社が債務超過になってクビが回らなくなるまで営業させ、損失が膨らみきったところでしぶしぶ保険会社を潰すという対応をとってきました
要するに、長期的に見て経営が立ち行かなくなることが明確な「詰んだ」状態の保険会社も、お上の情けで生き延びがちという状態らしいです。その結果、保険会社は加入者に不利な条件を提示する商品を平然と売りさばくことになっていて本来あるべき社会的な意義を果たせていないというのが現状だといいます。ギルティですね
元金融庁勤めの方らしく、地味に役立つ記述がちりばめられているのも本書の特徴
金融庁が公開している「ライフプランシミュレーター」の紹介がされていたり
総務省が公開している1人世帯の生活費と世帯人数の対比などが掲載されています
(大体、世帯人数の平方根になるらしいです。2人だったら1人世帯より√2≒1.4倍生活費がかかり、3人だったら√3≒1.8倍生活費がかかるとのこと)
スキャンダル的な面白さを期待していると肩透かしですが、読みやすく、体系的にまとまっているため、読んで間違いなく損はない1冊でした