映画館で『アリスとテレスのまぼろし工場』というアニメ映画を見ました
記事のタイトルは酷評する人がつけるようなタイトルになってしまいましたが、結論から言うととても見ごたえのある作品で見てよかったと思います。手の込んだ演出に印象に残る脚本で気合いの入った作品でした。ラストのシーンではしっかりと感動が待ち受けています
ただし、なんで感動したのか問われると答えに困ります。世界設定が独特なわりに物語の展開が早く、見ている最中に理解が追いつかない場面が多々ありました。映画『マトリックス』の3部作を1つにまとめたものを2倍速で視聴しているような感じといえばわかるでしょうか。そもそも劇中ですべての出来事を理解してもらおうと思ってすらいないのではないかと思うほどです
そういう意味では丁寧な作画や演出とは裏腹にストーリーは「見せ場さえ作れちまえばこまけえことはいいんだよ!」的なぶん投げ感があります
そもそも『アリスとテレスのまぼろし工場』というタイトルが意味不明です。まぼろし工場は物語の舞台の中心にある見伏製鉄所を指していることは間違いないですが、『アリスとテレス』とは? 物語にはアリスちゃんもテレスくんも出てきません
「哲学者のアリストテレスだよ!」と賢い人は気づくのかもしれませんがこの映画を見て、「アリストテレス」をタイトルにつけようと思う人はどれだけいるのか……。自分が気づいた範囲でこの映画で出てきたアリストテレス的要素を挙げていくと、「エネルゲイア(現実態)」という高校の倫理で覚えた難しいワードと「希望とは、目覚めている人間が見る夢である」という格言だけです。翻訳家泣かせのタイトルであることはまず間違いないです
そもそも登場人物たちの恋模様ってどちらかというと「プラトニック」だよなぁなんて思ったり。アリストテレスによる名著『ニコマコス倫理学』を読めば理解らなかったことが全て理解るようになっているとかそんな感じでしょうか。やや、無学ですみません
意味不明なことだらけなのに、見終わったあとに気持ちが動かされるのだから本当に不思議です。まるで蜃気楼のよう……と表現してしまうと制作側の思惑にまんまとハマってしまった感じがして嫌ですね
ネタバレなしにして書いているこの時点で総評すると、「なんだかわかんないけど凄みがある恋愛映画」って感じです。好き嫌いは非常に分かれると思います。わざわざ感想書こうと思ってこうやって書いている自分自身も「部分的に好き」って感じですから
というわけで気になった人は映画館で見るか、しばらく待って動画配信サービスで見れるようになってから見ましょう。個人的にはこういう尖ったのは動画配信サービスでみたほうがいいかなと思います。高いお金払って「ポカーン( ゚д゚)」だと悲しいですから。ちなみに自分が見た劇場では満席で上映館を絞っている割には見る人は多いような印象がありました
以下ネタバレありの感想です
振り返ってみると、この映画は往年の名作アニメ映画の要素を集めて形にしたキメラみたいな感じですね
ベースにあるのは新海誠監督が得意とするボーイミーツガールのセカイ系。恋する男女の騒動が世界の崩壊を引き起こすという物語の展開は典型的なセカイ系です。「あなたと一緒にいられれば、もう世界なんてどうなってもいい!」というノリも新海誠監督の作品に近いです
世界設定となっている「閉鎖空間」「繰り返される日常」は 押井守監督の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の設定に似ています。いわゆる「サザエさん時空」と呼ばれるものを扱っています
大道具である製鉄所、これはこじつけかもしれないですが、巨大な建造物が物語の中心にあるという部分で『ハウルの動く城』、物語途中から出てくる神隠しという題材は『千と千尋の神隠し』
まぁアニメ映画はお互いに影響しあってできているので、誰が影響を与えただの影響を受けただのどうでもよいのですが……。ただし、新海誠監督の作品風に味付けされていることは強く思いました。いや、これが最近のアニメ映画の流行りってだけかな……?
ともかくとして、自分が強烈に気になったのは物語後半、主人公の菊入正宗くんが五実もとい沙希を現実の世界に帰す方法を解説する箇所
正宗くんは「五実を乗せた状態で列車を動かし、トンネルを抜ける」ことが五実を現実の世界に帰す方法だと気が付きます。結果的にそれは大正解なのでよいのですが、なんでその答えにたどり着いたんでしょうか?
トンネルは山で覆われた見伏と外界を繋いでいる空間だから「現実世界に帰す=閉鎖空間を抜ける」だからトンネルを抜ける必要があって、五実は閉鎖空間にやってきたときに列車に乗っていたから、帰すときも列車に乗せる必要があって……と好意的に解釈すれば理解できますが、「仮説の域をでないのでは?」と思いました。それっぽいものをそれっぽく関連付ければ答えになるっていう発想は極めて陰謀論チックです
周りの仲間たちはその説明を聞いてすぐに正宗に全面協力します。しまいには列車に向かうと運転手としておじいちゃんが待機しているじゃありませんか! おじいちゃんも理解っちまった側みたいです
正直、後半の主人公勢力の理解力の急成長についていけませんでした。製鉄所の爆発事故、閉鎖空間が生まれたこと、現実世界から五実がやってきたこと、神機狼の存在、閉鎖空間のひび割れ……これらの要素がどのように関連しているのかよく理解できませんでした。何回か見ればわかるのかもしれませんが、自分が受けた印象としては難しいことは「神様」とか「恋の力」とかそういうスピリチュアルなワードで有耶無耶にされているなぁという感想です
時宗叔父さんが最後に製鉄所を自分たちの力で動かそうとした理由もよくわかりませんでした。「自分たちの力で製鉄所を動かせることを証明することによって自分たちが変われる存在であることを証明しようとした」とかかなぁ。時宗くんのお母さんに恋心を抱いていることも絡んでいるとは思うんですが、……うーん、やっぱりわかんないです。「結論:人の心はムズカシイ」でいいですかね
わかんないことだらけなんですけど、ラストのシーン、神隠しから帰還して成長した沙希ちゃんが見伏製鉄所を訪れるシーンはなんかノスタルジックでいいんですよねぇ……
上映中はずっと「訳がわからないよ」「そうはなんねぇだろ」と突っ込みまくっていたのに最後のシーンだけで盛り返してしまうという稀有な映画です。結局あの世界が何だったのか、どこまでが事実でどこからが幻想なのか、あの世界はどうなったのか、製鉄所に絵が残っているのはなぜなのか、まーったくよくわかんないんですけど、心に残るものだけはある、ヘンテコ映画