弱男の読み方は「じゃくだん」? 「よわお」? よわおの起源


「弱男」という言葉が最近流行ってきたように思います。こういう系の言葉はことごとく自分に当てはまるので、新しい表現が出てくると凹むんですよね。少し前までの流行りは「チー牛」でした

「弱男」は「弱者男性」を2文字に縮めた表現で、意味するところは「弱者男性」と同様です

ja.wikipedia.org

Wikipediaによると「弱者男性」は2010年代からある言葉のようです。主観ですが、広く使われ始めたのはここ最近、2020年代に入ってからのように思います

「女子供」という言葉があるぐらい女性は伝統的に弱者の区分に入れられることが多かったので「弱者女性」という言葉は概念として存在しつつも単語として普及しませんでした。一方で、男性は社会的には相対的に「強者」(あるいは基準)として扱われていたので、あえて「弱者」とつけてあげることで普通の男性とは異なる弱い男を表す「弱者男性」ができたのでした

さて、弱者男性を縮めた「弱男」表記はネット発のものです(たぶん)。テキストベースでやり取りされるネット発の言葉には特定の読み方が存在しないという特徴があります。代表的なのが「w」という笑いを表す記号です。これは声に出して読むことができないために後に「草」という表現になって音声化できるようになりました

「弱男」についてはどうでしょうか。弱者男性(ジャクシャダンセイ)を省略したものなのだから「ジャクダン」だと考えるのが普通でしょう。論理的に考えればこれ以外の読み方の余地はありません。しかし、この「弱男」、訓読みにして「よわお」と読むんだという人もいます。なぜ「よわお」が誕生したのでしょうか

そのヒントはテキストの変換と「弱男」が持つ意味にあります。

これを読んでいる方はおそらくスマホかPCが目の前にあるでしょうから、「じゃくだん」と打って漢字に変換してみてください。自分の場合、単語変換候補の一番目は「弱断」でした。最後まで変換候補を辿ってみても「弱男」は出てきません。

次は「よわお」と打ってみてください。こちらも「弱男」は出てこないでしょう。ただし、「よわおとこ」に変えると、「よわ」が「弱」に「おとこ」が「男」にそれぞれ変換されて「弱男」が完成するはずです

「弱男」はインターネット上でテキストを主体として使われる言葉なので、意味を通すためにも漢字に変換されることが推奨されます(読み方が一定しないのもその原因の一つです)。「じゃくだんは社会から消えたほうがいい」という文章より「弱男は社会から消えた方がいい」という文章の方が視覚的に意味がわかりやすいです。なので使用する側は漢字変換したいのですが、変換ツールの単語帳に登録しない限りは一発で変換できません。なので、一文字ずつ変換するか、別の言葉を入力して削っていくかのどちらかでしか「弱男」の漢字を引き当てることができません

「弱者男性」を入力してから「者」と「性」を削って「弱男」にする、が最もセオリー通りの入力方法でしょう。ただし、このやり方は入力してからカーソルを2回も移動しなくてはならず、非効率です

「弱い」と「男」を引き当てればいいのですから「弱い男」と入力して、真ん中の「い」を抜けば「弱男」ができあがります。しかし、このやり方もカーソル移動が生じるので面倒です

そもそも、「よわ」という音に対して一致する漢字は多くありません。特に入力候補が表示されるスマホでは「よわ」と入力した時点で「弱」の漢字が表示されます。であれば、「よわ」と「おとこ」をそれぞれ変換して「弱男」を入力するのが最もスマートです

上記により使用するときに「よわ」と「おとこ」を使用するので「よわお」という読みが登場したのだと考えられます

「よわお」の良いところは打ちやすいだけではありません。訓読みなので意味がわかりやすく、音がやわらかいという特徴もあります

「弱男」は「弱者男性」を意味しますが、「ジャクダン」と聞いただけではどのような意味を持つか音で判断することはできません。「ジャク」と「ダン」、それぞれの音に当てはまる漢字が多いため、限定するのが難しいのです。これは日本語的にはその単語がもつ意味が特定できないということに繋がります

上述した変換のしやすさの要因でもありますが、その点「よわお」は意味が通りやすいです。なぜなら「よわ」という音が持つ意味はほぼ「弱い」しかなく、「~お」というのは「男」を表す音として名前などに伝統的に使用されているのです(名前だと「ますお」や「みちお」。名前ではなく伝統的な言葉としては「ますらお」とか)

加えて、中国(当時)の音に近い音読みに比べ、日本起源の読み方である訓読みは柔らかい印象を持ちます。「草原」を「ソウゲン」と読むか「くさはら」と読むかでイメージするものが違ってきます。おそらく「くさはら」より「ソウゲン」の方が大きい「草原」をイメージしたのではないでしょうか。音読みは読み手に壮大で洗練された印象を与えます

なので「ジャクダン」と読むと、音読みの持つ「壮大」で「洗練」されたイメージが「弱者男性」の意味するところの「社会的に疎外された男性/女性から相手にされない男性/仕事のできない男性」という概念と齟齬をきたしてしまいます

「よわお」は音読みに比べるとひ弱で間抜けな響きです。加えてインターネットスラングの中に「よわよわ(⇔つよつよ)」という言い回しがあったり、「ゲームうま男」などの「~男」などの使用方法があったために、それらのスラングの使用方法を継承するものとして「よわお」が登場したのだと思われます

ここまで「よわお」の起源について自分なりに考察してきました。自分としては「ジャクダン」よりも「よわお」派です。論理的には「ジャクダン」が正しいのですが、「よわお」の方がイメージ的にしっくり来ますね。日本語の中に存在する規則から外れた読み「ふいんき(雰囲気)」とか「あした(明日)」とかはこういうふうにイメージ先行で作られて、慣用表現となっていったのかもしれません

最後に変わり種として「弱男」の特殊な読み方をいくつか紹介しましょう

「ジャクお」:重箱読みにした読み方です。チグハグな印象を受けます

「よわダン」:こちらは湯桶読みです。「ジャクお」よりかは不自然じゃないです。ちょっとありな気もしますね。「弱いもの系男子」とかが語源だったらこっちの方になってたかもしれないです

「ジャクナン」:「長男」「嫡男」などの単語と同じく「男」が「ナン」になっています。おそらく「ジャクダン」という「K」と「D」の破裂音が続く読み方を発音しにくいと思った人が発音の濁った部分を直そうとして「ナン」読みにしたのだと思われます

「ジャクナム」:「金正男(キム・ジョンナム)」などで使われる男を意味する韓国語の「ナム」がくっついた形態です。唐突に韓国語読みになるあたりが意味不明です。そういう荒唐無稽なところに面白みを見出した人達がこの読み方を作ったのでしょう

以上です。「弱男」はまだ誰のものでもないので、各々が好きなように読みましょう!