読み終わって表紙を見返すと、むしょうに「あーそういうことね。完全に理解した」と言いたくなるこの本。わかりやすい日本語の書き方について書かれた本です。イラストは『ポプテピピック』の大川ぶくぶ先生によるもの。
著者の安田峰俊さんは文章一本で成り上がってきた野生のルポライター。
なんと、著書『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』で「第50回大宅壮一ノンフィクション賞」を受賞しています! ……という受け売りです。
芥川賞や直木賞と運営元が同じなので権威ある賞なのは間違いないのですが、いまいちすごさがわかりません。不勉強な俺は大宅壮一という方がどんなにえらい人物なのかもわからない。
ただし、以下の記事を書いた人物だといえば、「ああ、この人か!」と思ってくれるかたもいるのではないでしょうか。
ネットから紙媒体に進出してきた安田さんが書いているこの文章術は、紙をベースに活動してきた先生方が書いているような"堅苦しい"文章術とは違って、古臭くなく、かつ実践的です。
扱っている題材もビジネスメールからブログの文章、twitter投稿の極意など新しいものが中心です。現代において、文章がうまく書けることは大きなアドバンテージになるとのこと。リモートワークがはじまってからチャットツールで文字ベースの意思疎通をすることが多くなった身としてはうなずけます。
そんな安田さんが持ち出すのが「ユニバーサル日本語」という概念。早い話、だれにでも伝わるような平たい日本語で書きましょうという考えです。
安田さんが「ユニバーサル日本語」が具体的にどのような文章なのかの説明として挙げているのが「Google翻訳」しても意味が崩れないということ。行間を読むのが苦手な翻訳機は固有名詞が必要以上に多かったり、回りくどい言い回しをしている文章をうまく扱うことができません。機械さえ「伝わる」ように文章を書いていくことで人間の読者にも伝わる文章になるといいます。
本書の中で一番印象に残ったのは、第3章の「ユニバーサル日本語 VS 漢字」という部分。漢字は少ない字数で複雑な意味を持たせることができる一方、多用するとむずかしい印象を与えてしまうと述べられています。確かに、漢字ばっかりの文章だと息継ぎをするひまがなくて読んでいて苦しいと感じることはままあります。
そんな文章をわかりやすくするために本の文中では漢字を適度に「ひらく」ことを勧めています。「殆ど」「寧ろ」などの漢文の書き下し調の単語はもとより、「可笑しい」「相応しい」等の当て字が使われている単語は原則としてひらく、そして、場合によっては「つくる」「つとめる」などの同音異字がある単語もひらいたほうがわかりやすくなるのでひらくといった具合です。
もしかしたら、漢字の割合を減らしていこうというのは現代の日本語のトレンドなのかもしれません。
明治時代あたりの文章を見てみると漢字の多さにげっそりしますし、昭和の文章でさえ今見返してみるとなんでこんなに「固い」んだろうと思ったりします。個人的に旧字体のあの圧迫感はきらいです。「体育会」って旧字体で書くと、「體育會」ですよ。違法組織みたい。
また、漢字をひらくのと同時に改行を多く含めるのも「ユニバ―サル日本語」を書く際のポイントだと述べられています。
近年のライター向けの文章術の本を読むと、長くても5行程度──。すなわち、文字数にして200字以下で改行したほうがいいと書いてある。私自身もそう思うので、この本のような一般書やウェブニュースの記事などは、200字どころか150字以下で改行する書きかたを心がけている
「自分の文章は改行が少なくなりがち」という自覚があるので、本の内容を参考に改行を増やしていきたいです。有名人のブログばりにガンガン改行していくつもりはないですが……
ちなみに、ビジネスメールの章で「了解です」が「承知しました」に変わりつつある風潮についてそんなのは無意味だと断じている部分があるんですが、これには俺も納得です。目上の人に対して「了解」が失礼な言いかたになったのっていつからなんでしょう。やっぱりヘンだな、と思ってる人はいたんですね。
文章術の令和最新版。語り口は軽妙で、くすっと笑える部分もある良書です。