AIイラストって全部AIじゃなくてもよいのでは? オリジナリティと効率性のトレードオフについて

(サムネイルは適当に生成したAI画像でマクドナルドの広告とは関係ないです)

生成AIを使用してCMを作成された日本マクドナルドの広告がぷち炎上しています

news.yahoo.co.jp

制作を行ったのは架空飴さんというAIを使った手法で動画やイラストを作成しているネオリアリスティックアーティスト。マクドナルドのフライドポテトとAI美少女がコラボしている広告がX上で公開されています

この広告に対して、「気持ち悪い」「不気味」という批判が寄せられているというのが上でリンクを貼った記事の内容です。確かにAIで生成された画像/動画に特有の不自然な感じ(人物がなんか背景から浮いているような感じ)が残っていて、見ていて違和感を覚えます

www.youtube.com

しかしながら、「これはAIで作られたんですよ」という事前情報がなければ見分けるのが難しいと思う人がいそうなぐらいにはリアルに作られています。少なくとも、AIで画像生成ができるようになった初期の頃にあったような「明らかにAIで作ったでしょ」とすぐに見抜けるものとはレベルが格段に違います

「なんだか不気味だ」という批判はAIの画像生成技術が進歩していけば解消するでしょう。現に、先述の通り2022年ごろの生成画像と現在の生成画像はリアリティが段違いです

問題は「AIで生成された画像/動画は作品を発表した人に著作権が帰属するのか」という指摘です

AIによる画像生成は、従来的な方法で人の手によって作られた多くの画像がもとになっています。いわゆる「学習データ」ですね。膨大な学習データによってAIは概念と具象の関連付けを行い、人間によって命令が与えられたときに「それっぽい」ものを作り出すのです

AIは本当にプロンプトの意味を理解しているのか? ……という哲学的な問題はさておき、AIは画像を生成するために多くの画像を学習しています。効率的に学習するためにAIで生成された画像を教材として再学習させることもありますが、種火のないところに火が起こらないように開始の時点では「オリジナル」の画像が必要です

なので、AIのやっていることをいくつもの「オリジナル」の画像の切り貼りだと捉えることもできます。特定の画像から「目」、特定の画像から「耳」、特定の画像から「鼻」……というように異なる人間の顔のパーツを寄せ集めていけば、どの画像にも存在しない人間の顔の絵ができあがるわけですが、これをピクセル単位のものすごく細かな次元で行っているのがAIのやっていることの原理ではないでしょうか

だとすれば、「AIは他の人が頑張って作ったものを対価を支払わずに使用している」という意見が出てくるのはもっともです。AIの学習データの範囲が無制限であれば、「いままで/これから」オリジナルの作品を「つくってきた/つくる」人は無償でAIを強くするために労働させられているようなものだからです。ネタ元に対するリスペクトが欠けている、というやつですね

じゃあ、オリジナル作った人に分配すればいいのかというと物事はそこまで単純ではありません。だって、AIは既存のデータセットを「高度に解釈して」作られた判断基準の体系だからです。AIの絵を見て、どのオリジナル作品がどのように寄与しているかなど見分けが付きません。どのように分け与えればいいのか判断つかないのだから公平な分配は不可能です

この問題に対してどのように折り合いをつけるか……に関しては正直答えがないのですが、ふと疑問に思ったのは「オリジナリティ」ってなんだろうという問いです

AIによる◯◯生成はIT分野でも進んでいて(当然ですね)、例えば自分の業務の範囲では「AIアシストによるプログラミングコード生成」が大いに役に立っています

GitHub Copilot にいいコードを書いてもらう方法 - GMOインターネットグループ グループ研究開発本部

具体的に言うとGithubCopilotというGithub上のプログラミングコードのデータを学習したAIによるコード補完サービスが便利なのです

メソッドの名前や、変数の定義などをちょっと書いてあげると、Copilotが「もしかして、こういうコードを書きたいんじゃないの?」とコードを提案してくれます。これが特に驚くほど的確な回答を繰り出してきて、自分が書くよりもはるかに迅速にコードの作成を行ってくれます。人間である自分が行うのは提案されたコードの内容を見て、問題なさそうであれば「変更を確定」、問題があれば「問題の部分のみを修正」です。作業が効率的になりました

「なぜこれが可能か」というとプログラミングというのはほとんどの処理が「車輪の再発明」的なものだからです。データベースに問い合わせてデータを取ってきたり、変なデータが来たときに例外処理をしたりと実装すべきほどんどの処理はエンジニアが独自に思いつくものではなく、すでに誰かが実装してきた処理です

自分は社会人になってからプログラマとして仕事を続けていますが「あなたはオリジナリティのあるプログラムを作ったことがありますか」と誰かに聞かれたら「いいえ」と即答するでしょう。オリジナリティのある処理を作り出せる人間はプログラマの中でも上澄みの上澄み、ほとんど雲の上の存在だと思っています。要するにこれまでにないアルゴリズムを自分で考えるということなのですから。自分が業務で行っているのは既存のメソッドを組み合わせて、要件に沿うようにアレンジするという作業です

ここで、イラストレーションの話題に戻ります。上記の内容を踏まえて「オリジナリティのある」のイラストを作成するってどういうことでしょうか

日本で有名なイラストレーターといえばSuicaのペンギンやチーバくんを作ったさかざきちはるさんやゲーム『ファイナルファンタジー』のキャラクターデザインを手掛けた天野喜孝さんが思い浮かびます(独断と偏見)。絵を見れば「あっ、この人の絵だ!」とわかるような絵ですね

Suicaのペンギンはこうして生まれた (前編) | ウェブ電通報

静岡凱旋展 天野喜孝-ORIGIN|展覧会のご案内|駿府博物館

しかしながら、世の中に数多く需要が存在するイラストレーション(及び視覚的なクリエイティブ)を先に名前を挙げたような有名な方々がすべて担っているわけではありません。知名度ではなく数で言えば世の中のイラストの大多数はクレジット表記のない名もなきイラストレーターによるものです。これらのイラストに求められるのは、新奇性や独自性ではなく、人がぱっと見で意味を理解することのできる機能性です

(自分はイラストレーターではないので想像を交えて論を展開しますが)多くのイラストは発注元の要件通りにイラストを作成することが求められます。雲であればみんなが想像するような形の記号的な雲、犬であれば耳が三角で鼻面が出ている典型的な犬を書くのです

AIイラストが一番の強みを発揮するのはこのような分野においてではないでしょうか。AIは「いわゆる~」を表現するのがうまいので、プロンプトさえ適切に与えれば「100点ではないが80点ぐらい」の回答を出してきます

あとはブラッシュアップとしてイラストレータが自分の好きなようにちょこっと修正してあげればいいのです。この手法を使えばイラスト制作の業務が格段に効率的になるはずです

これは漫画や映画などのクリエイティブ(のイメージが強い)ような場面でも同様です。制作前の「デッサン」的なものにAIによる補助が使えるかもしれませんし、机や椅子などの小道具、空や海などの背景をAIが描いたものに置き換えることができます。「すべてにこだわる」が理想的なのかもしれませんが、結局、制作期間が有限である以上どんなクリエイティブにも妥協は必要です。どこかで時間を削れれば、他の箇所に多く時間を割けるわけですから、AIによる効率化がオリジナルティを損ねるかというと必ずしもそうとは言えず、クリエイターが表現したいものそのものに集中できるメリットもあります

AIイラストと言うとAIを使ってすべてを作るようなイメージがありますが、実際の現場では「ポイント」で使われていくのではないでしょうか

(最後らへん文章書くの飽きてきちゃいました。自分の考え伝えたら文章作ってくれるAIあったら楽ですね)