入試不正と思考能力 不正した女子学生こそ真の合格者なのでは?

大学入試の共通テストで問題の流出があったという記事を見ました。恥ずかしながら、世間に疎い俺はついさっきこの事件のことを知りました。てっきり問題の写真をスマホで取って、試験が終わった後にネットにアップしたのかと思ってましたが、試験の最中に外部の人に尋ねていたんですね。大胆不敵です。

www3.nhk.or.jp

前にも京都大学の入試で同じような事件がありました。そちらはyahoo知恵袋に問題の答えを聞く質問が投稿されたというものでした。

ja.wikipedia.org

事前に入試のルールを知ったうえでこれらの行為に及んでいるわけですから、彼らの行為は明確な不正行為です。弁解の余地はありません。

一方で、ネットで検索すればわかるようなことをあえて外部から遮断された閉鎖空間に閉じ込めて問うことに意味があるのだろうか、とも思ってしまいます。

例えば、「平安京に遷都したのは何年か」という問いに対して正解を書ける人はあらかじめ教科書に「794年」という答えが書いてあっているのを見て、それを脳内に記憶した結果を回答用紙に記入するわけです。自分で過去の史料を読解して、それらを組み合わせた結果「794年」という回答にたどりついたわけではないのです。

その意味でいえば「平安京に遷都したのは何年か」に答えられた人は「教科書」というカンペを見てそれを脳内に留めていたというだけにすぎません。試験中にインターネットに回答を求めた人との違いは、事前に知っていたか、最中に知ったかの違いだけ。

自分の知らないことに遭遇した場合、とりあえずネットで検索してみるのは日常的に行われている行為です。今日では「ネットで検索してもいい場面」よりも入試の最中のように「ネットで検索してはいけない場面」の方がはるかに特殊です。

試験ではなく「仕事」について考えてみましょう。皆さんは業務の最中にGoogle検索を使うことはありますか。自分はプログラマやっていますが、Google先生にはお世話になりっぱなしです。公式リファレンスとかStackOverflowのページとかネットには有益な情報がざくざくです。プログラマはチートし放題ですね。ほかの職業についてよく知りませんが、仕事中にGoogle検索して怒られる職業は現在ではほぼないんじゃないでしょうか。

そう考えてみると、現在行われている「入試」の形式が現代人の感覚にあってはいないんじゃないか、という気がしてきます。ネットで検索できる今、固定化された知識を答えられたところで誰もすごいとは思いません。

もちろん、試験問題を制作する側もその事実に気づいていないわけじゃありません。自分が2013年にセンター試験を受けた限りでは漢字の読み書きとか英語の単語問題以外では単純なクイズ形式の出題はほとんどなく、文章読解とセットになったものがほとんどでした。

とくに大学入試の二次試験なんかにはその傾向が顕著だったように思えます。記憶能力の良さに左右されがちな世界史の問題にしても、複数の知識を組み合わせて文章を作り上げるような問題が意識的に出題されていた印象です。

……なのですが、やっぱりこれにも「教科書」のような攻略法がないわけではありません。塾の先生の講義を受ければ入試の問題を「どのように読み解くか」、過去問をいっぱいやりこめば「どんな感じに答えれば正解になるか」がわかります。覚えることが「解答」から「解法」にシフトしただけです。

結局、自分の頭で解いているというより他人の頭で解くことには変わりがありません。だって問題形式は一緒なんだもの。問題形式覚えちゃえば、後は変数となる部分が年度によって入れ替わりになるだけ。「1 + 1」も「3 + 2」も答えは違えどおんなじ問題なのです。

そもそも、〇/×を付けられるような問題は、採点される側と採点する側で合意が取れるようなものでなければいけないので、結局は「覚え」問題にならざるをえないわけです。過去に誰かが正解にたどり着いた問題を問題にしたものなんですから。

だとすれば、わざわざ俺が考えなくとも「ググっちゃえばよくね?」と思っちゃうのが現代人的感覚です。20代後半の俺がそう思うのですから、俺よりもはるかに若いデジタルネイティブな子たちにすればその感覚はもっと強いわけです。そう考えると、近年の受験勉強は「なんでスマホあるのにわざわざこんな古いこと習わなきゃいけないわけ?」って疑問でストレスたまりそうですね。マナー講習と受験勉強はあんまり変わらないかもしれません。面接室のドアを叩くときの回数は何回が正解でしたっけ?

インターネットの普及を加味して、「スマホの持ち込みをOKにすればいいのではないか?」という意見もよく見ます。否定するわけではないのですが、結局、検索できたところで、記憶問題とあんまり変わらない結果になるんじゃないでしょうか。理由は上記に書いた通りで、「解法」がミソになるような問題も「解法」自身を覚えてしまえばいいだけだからです。できるだけ採点者の受けがよさそうな解答を書いてあげるゲームになるわけですね。自分が考えた独自の意見を書いていいわけではありません。

そう考えると、「自分の上着の袖に隠したスマホで撮影した画像をSkype経由で送り、あらかじめ交渉しておいた大学生たちに解答させる」という合理的なシステムを1人で構築した事件の受験生は、「大学入試」というでっかい問題に「本当に自分の頭で考え抜いて」回答を行った唯一の受験生だと言えるのではないでしょうか。

もちろん、記事の冒頭でも書いた通り、「やっちゃいけない」に該当する行為を行ったわけですから不正は不正です。でも、不正を行った受験生の子の手口を見て、「悪い奴だなぁ」より「これを一人で考えて実行したなんて、すごいなぁ」と思う人って結構いるんじゃないかな、と思ってしまいました。

だって、このカンニング方法はいくらGoogleで検索してもでてこないんだもの。