この映画の死臭はうんこかゲロか 『大怪獣のあとしまつ』感想

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国民の皆様の被害を最小限に留めるために一番はじめに書いておきます。2/4(金)から公開中の映画『大怪獣のあとしまつ』を見るかどうか迷うのであれば、見ないほうが幸せになれます。「この記事はネタバレを含むので"映画を見てから"読んでください」と書くのに罪悪感を抱くぐらいおすすめできない作品です(この記事にネタバレは含まれます)。

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「面白くない」ことで話題になる映画はいくつかありますが、公開から1日経過した2/5(土)に自分が確認した限り、『大怪獣のあとしまつ』もその部類に入る映画です。実写版の『デビルマン』や『テラフォーマーズ』が引き合いに出されるといえばどんな感じかおおかた予想もつくのではないでしょうか。

怪獣が現れたり、動物が狂暴化したりする「モンスター映画」は、騒動の原因となるモンスターの出現~退治までを描くのが普通ですが、『大怪獣のあとしまつ』は怪獣が倒されてからを描くモンスター映画のパロディ的な作品です。近年で一番日本で話題になったモンスター映画である『シン・ゴジラ』の影響を大きく受けています。『シン・ゴジラ』は本作品を楽しむための必修科目かもしれないですね。『大怪獣のあとしまつ』を楽しむために『シン・ゴジラ』を見ようという酔狂な人間がどれくらいいるのかは不明ですが……。

怪獣討伐後のアフターストーリーという着眼点だけだとすごく面白く思えます。怪獣映画では怪獣が盛大にやられてハッピーエンドを迎えることが多いですが、尺の都合上、その後については断片的にしか触れられないことがほとんどです。

それなりの大きさの怪獣が街中で爆発四散すれば、街には怪獣の肉塊が残されます。怪獣退治をしたヒーローは敵を殺したらさっさと帰ってしまうのがお決まりですが、どうせなら掃除までしていってほしいというのが街の住民の本音のはずでしょう。後に残るのは血まみれの街です。殺して逃げたのでは死体遺棄ともとらえかねられません。

そんな疑問に答えるのが本映画『大怪獣のあとしまつ』であるはずなのですが……残念ながら面白い映画になっているとは感じませんでした。

自分は評判があんまりよくないということを知ってから見に行った人なので「腹が立った」とはなりませんでしたが、付き合ってから初めてのデートで見に行った映画がこれならば関係性が崩れる危険性があるかもしれません。映画の内容のせいで「つまらないデートだった」と思われてしまうかも。

自分で分析した限り、面白くない原因は大きく分けて2つあると思います。

1つは、観客の予想する笑いと製作者側の想定する笑いがずれていたということ。本作は明らかに「モンスター映画」の土台があって成り立っている作品ですから、もっと笑いをモンスター映画寄りにしたものにすればよかったんじゃないかと思います。「なんで怪獣は光線を出したがるんだ?」「死体をポイ捨てするヒーローは無責任すぎないか?」のようなモンスター映画のお決まりを皮肉るような笑いを自分は期待していました。しかしながら、『大怪獣のあとしまつ』では内閣府のぐだぐだ加減や唐突にぶち込まれる下ネタなどが笑いの中心になっており、肝心の怪獣が空気になっている場面が多かったです。

余談ですがどうせ下ネタをやるなら、怪獣の下ネタを入れてほしかったですね。「映倫」の関係か知りませんが、怪獣映画のモンスターの性器は描かれないのが通例です。『大怪獣のあとしまつ』の怪獣も、おなかの下にちょっとぽっこりとした部分があるだけの"去勢された"モンスターでした。

このような怪獣の「生殖器問題」は非常に興味深い問題で、どんな形をしているのか、どのくらいでかいのか、公共の電波に流してもよい代物なのかなどなどいろいろな問題につなげることができます。

以上のように、製作者側の用意した笑いが少しずれていたというのが面白くならなかった原因その1。

そして、その2が緊迫感のなさです。

怪獣がすでに死んでいる――というのは出オチ感あってそれはそれでユーモアがあります。しかし、死んだ怪獣は動かないのですから、後々の展開を考えると緊張感をどのように継続させるかという課題が残ります。怪獣映画のスリルを構成しているのは「この化け物をなんとかしないとやばい!」という緊迫感でしょう。登場人物がどんどん怪獣にやられていったりすると、見る側は「みんな怪獣に殺されてしまうのか!?」とハラハラさせられますよね。

『大怪獣のあとしまつ』では怪獣の代わりに怪獣の死体が放つ異臭がその「緊迫感」の役割を担っているのですが、臭いって映画だと伝わりにくいですし(登場人物に「くさっ」って言わせるしかない)、周辺住民が困っているというだけであんまり危機に感じないです(ちなみに『大怪獣のあとしまつ』制作陣の名誉にかけていいますが、本編の終盤に臭い以外の被害についての言及もありますので考慮はされています。ただし、本当に終盤)。

怪獣の死体が横たわっているのが京都市とかだったら、「京都市在住の無駄にプライド高そうな住職や舞子さんなどから東京の閣僚たちが婉曲表現ましましの嫌味を言われつづけ、次第にその言葉遣いがエスカレートしていく」なんて場面を展開に合わせ作れたかもしれません。京都の怪獣除去であれば、もし怪獣の死体除去で何かあれば文化財がぶっ飛ぶという縛りも作れます。あくまでちょっと考えてみた程度の話ですが。

ともかくとして、自分がちょっと考えてみた限りでは上記の2点が映画をデビルマンライクにさせているのではないかと思います。

つまらないところだけあげても公平ではないのでよかった点もいいます。

キャスティングが豪華ところは素直にすごいと思いました。主人公を演じるのは山田涼介さんでヒロインは土屋太鳳さん。内閣総理大臣は西田敏行さんで、その他松重豊さん、オダギリジョーさんなども登場します。染谷将太さんと二階堂ふみさんがちょい役で出ているのだから相当なものです。

また、笑いという点では登場人物全員のセキュリティ意識がガバガバなのは突っ込みどころがあって面白かったです。この映画で出てきた「部外秘」の情報は大体次のシーンには誰かに知れ渡っています。それも、秘密を守るべき人物が自らしゃべったり公開したりするのでどうしようもありません。「人の口には戸が立てられない」ということでしょう。

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総論として、見ても得はしない映画です。精神状態が安定しているときに、怖いもの見たさでちょっと見てみるというのがこの映画の適切な視聴方法です。Netflix, Amazon Prime, U-NEXTあたりで配信開始されたら4倍速ぐらいで見ましょう。1倍速で見たときとあまり感想は変わらないはずです。

この映画からは「やっぱり怪獣は生きていた方が面白い」ということを学ばせていただきました。1900円&115分と引き換えだと考えると少し悲しいです。