ルッキズムとパーソナリズム 最終的にはガチャイズム

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ルッキズム」なる言葉をよく目にするようになりました。日本語で表すと外見至上主義。「見た目だけで判断される風潮」を言い表した言葉です。このワードが登場する場合は、たいてい批判的な文脈で使われます。

Google先生によると、この言葉が流行りだしたのは2010年代の後半あたりから。2022年の現在までおおむね上昇傾向にあります。

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てっきり東京五輪での渡辺直美さんを起用した演出案の問題が報じられた2021年3月ごろにピークが来るのだと思っていましたが、実際のピークは2020年の6月です。上智大学のミスコン廃止が報じられたのがこのころだったので、その影響だと思われます。

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字面としてはなんだか新しく聞こえるこの言葉ですが、考え方自体は全く新しくありません。「人が他人を外見で判断している」なんて俺は小学生のころから気がついていましたからね! 

もちろん、俺だけがそんなことを考えていたわけではなく、大体みんな考えていたのでしょう。それを表現する言葉が見つからない状態だったというのが正確なところだと思います。

実際、赤ん坊のころから人は他人を外見で判断するのだとか。観相学は人の顔からその人の本性を見極めようとする昔の学問です。体型から人の気質がわかると提言する「クレッチマーの性格類型」という心理学的な研究結果もあります。『人は見た目が9割』というベストセラーもありました。

そんな「外見至上主義=ルッキズム」、いじめの原因となったり、入試や就職などの人生の節目となる選考で不公平を生んだりすることが問題とされています。

容姿が原因で起きるいじめがあることに異論のある人は少ないでしょう。見栄えのいい人は昇進しやすいという統計的なデータもあるようです。外見を重視しすぎてしまうことで弊害が起きるのはその通りだと思います。

ルッキズムの問題点については俺はあんまり詳しくないのでその筋の人におまかせするとします。ルッキズム問題について調べていて、人を判断するときの基準っていったい何を使えば公平なのだろうと疑問に思いました。

例えば、ルッキズムが外見至上主義ならば、その反対は内面至上主義を意味する言葉であるはずです。人間の内面のことを性格といい表すことがよくあるので、内面至上主義のことをパーソナリズムと呼びましょう。

パーソナリズムはルッキズムに比べて公平でしょうか?

この場合「あいつは顔がいいから」が「あいつは性格がいいから」に変わります。性格がいい人が性格がいいというだけで成功したり、幸福であることに疑問を覚える人はあんまりいなさそうですから公平なように見えます。

しかし、個人の性格と個人の容姿というのは実際のところどれだけの違いがあるのでしょうか。例えば、ルッキズム批判では「容姿」という個人の努力では一定以上どうにもならない能力が評価基準になることが問題とされたりしますが、「性格」は個人の努力でどうにかなるのでしょうか。

少し卑屈な見方をしてしまうと、(というか俺的な考えですが)性格というのも本来持ち合わせている部分が大きいように見えます。根っから適当で怠惰な俺のような人物もいれば、根がまじめで勤勉な人もいるわけです。

もちろん、性格は変えることができるという考え方もあります。現に、性格改善セミナーと名乗るやや宗教の香りがする集会を俺はいくつか知っています。2週間ぐらい社会から隔絶された特別な施設で過ごすと、「まるで別人」になって帰ってくるそうです。あんなに暗くておとなしかった彼も、セミナー後は明るく活発な好青年に!

このようなパーソナリズムが蔓延すると、今度は「学校用の人格」「入試用の人格」「就活用の人格」という特殊な人格が生まれ始めます。髪の色を変えるようなノリで、自分の性格を改造してしまうのです。理想的な性格を演じられれば、人生を有利に運ぶことができるのです。

……と、ここまで書いてきて、パーソナリズムはすでにこの世にあるような概念であるかのように思えてきました。外面を気にして、「世間に印象のいい」ふりをするのってよくある話ですよね。そもそもパーソナリティーの語源となったペルソナとは……(以後、心理学の本を読むと必ず説明がある仮面の話なので略)。

パーソナリズムもルッキズムと同じような欠点を持ち合わせていそうです。「顔が悪い」よりも「性格が悪い」の方がショックなのでルッキズムより厄介かもしれません。

であれば、人を見る際に公平な基準とはなんでしょう? 個人の能力=スペッキズム(specism)? 個人の努力=ガンバリズム?

いずれも、ルッキズム、パーソナリズムと同じような欠点を抱えていそうです。「あいつはできないからなぁ」「あいつは努力が足りないからなぁ」……。

誰も傷つかなくてもすんで、誰もがある程度納得するのは最終的にはくじ引きなのかもしれません。運至上主義=ガチャイズムと名付けました。

あれ、これって生まれですべてが決まる中世の価値観では……?