確率と投資金額からのリターンの計算が出来ない頭の悪い人が罰金を払う季節がやって参りました。
— ひろゆき, Hiroyuki Nishimura (@hirox246) November 24, 2021
売り上げの約40%は公共事業などで使われるので、お近くの情弱に「宝くじって夢があるよね〜」とか言って散財させると吉です。https://t.co/Sh242DncUy
ひろゆきさんが11月25日にツイートした上記の発言がプチ炎上しているという話を聞きました。
内容はざっくりいうと、「年末ジャンボを買うバカがいっぱいいらぁ。そいつらにどんどん買わせて得しようぜ」というもの。
そこまで過激な発言ではないと思うものの、宝くじを習慣的に買っている人からは顰蹙を買ってしまうような発言だったようです。
意見そのものは至極正論で、反論の余地はないです。宝くじというのは買った側が損するように作られた金融商品で、「貧者の税金」と呼ばれることもあります。
上の記事によると一口300円の宝くじを買って見込まれる期待値は144円程度とのこと。要するに試行回数が増えれば増えるほど144円を300円で買っているような状態に近づくということです。
……普通に考えてこれは損です。確率の考え方がわかっていれば買わない方がいいことは当然なのにどうして宝くじを買ってしまう人がいるのでしょうか。
夢を買っているんだ! という意見
宝くじを買っている人がよく口にするのは「夢を買っている」という意見です。
当たる当たらないに関わらず、当たった時のことを考えたり、当たるかもしれないというドキドキ感が楽しいんだという主張です。
ディズニーランドのアトラクションみたいなものだと思えば一理あるんでしょうか……? あれも乗った後には何も残りませんし。
ただ、期待値が50%を下回るというのは歴とした事実なのでそんな商品に「夢がある」と思うのはどうかと思います。150円を300円で買うことにドキドキする人がいるのでしょうか? 期待値が低いということは「投資したお金がそれ以上の金額になってくる可能性が低い=夢がない」という意味だと思うのですが……。
もちろん、これは確率の話ですから、数枚買っただけで1等が当たるという状況はありえます。そうなれば、5億円当たったとして、収支はプラス4億9999万9700円になるわけです。
わお! と言いたいところですが、それは超超超まぐれの話。次に紹介する記事では2000万分の1の確率だといわれています。
これは「当たらない」と断言してもいいような数値です。飛行機で死亡事故にあう確率が1万分の9だといわれているそうですから、宝くじで1等が当たるという妄想は飛行機事故におびえる人よりもはるかに深刻に非現実的だということです。2000万分の1という確率を目の前にしても夢を見られるのでしょうか。いや、実現しないからこそ夢なのか。
宝くじを買っている人もうすうすそのことに気づいてはいるのでしょう。「当たるから買うんだ」と言わずに「夢を買っている」と主張している点にも現実と理想のはざまにある彼らの葛藤が見て取れます。
それでは、なぜ損だと知りながらも宝くじを買ってしまうのでしょうか。
正常性バイアス
誰にとっても自分は他人に比べて特別な存在ですが、そのような自意識は人々の判断にも影響を与えています。
「自分だけは大丈夫だ」という思い込みによる判断が下される傾向にあることを心理学の用語で「正常性バイアス」と呼びます。
災害時に自分だけは助かると思って逃げ遅れてしまうことの原因として挙げられたりする人間の認知のゆがみの一つです。
宝くじを買う人は皆、宝くじが当たりにくいものであることは理解していると思います。宝くじがぼんぼん当たるようであれば周りの人に1人ぐらい当選者がいてもいいものですから。それに1億円以上という高額な当選金額がなぜ300円ぽっちで手に入るかというとそれは当選確率が著しく低いからです。そのことはわかっているはずです。
わかっていますが、上で説明した正常性バイアスによって、宝くじを買ってはずれてしまう確率がゆがんでしまいます。「宝くじは当たりにくいものだが、俺が買ったらもしかしたら……!」と根拠のない希望を抱いてしまうのです。
人間は大きな数字を見るとバグる
2021年の年末ジャンボの当選額はなんと10億円だそうです。10億……銀行のアプリ起動してこの数字が出てきたら、にやにやが止まらなそうですね。
一方で、手に入れたときの想像がしにくい金額でもあります。「すげぇ」ということはわかりますが、どのように使えばいいかわからない数字でもあります。
一方で先ほど紹介した宝くじの当選確率2000万分の1も想像の範疇を超えた数字です。
2000万回もなにかを試行することはほぼないので日常生活的にはほぼ無縁な確率でしょう。
下の記事で塚崎公義先生が「人間は非常に小さい確率を実際より大きく感じる」という行動経済学の理論を紹介しています。
確かに宝くじはかなり当たりにくいとわかっていても、それがどれくらい当たりにくいのかを直感的に認識することは難しいです。
思うに、宝くじの隠れた魔力というのは一口300円程度という日常的な数字から超低確率で10億が当たるという極端な数字の幅にあるのではないかと思ったりします。いわば数字の遠近法的な錯覚を利用しているのです。
宝くじというのは入り口に300円という日常的な数字があって、ゴールに10億という異常な数字が提示されている構造になります。このような極端な数字のふり幅を用意してあげると、あたかも10億という数字が300円の地続きであるかのように見えてしまうのではないでしょうか。加えて何千万分の1という超低確率の調味料を入れてあげると、300円が10億にばけるという非現実的な状況のありえなさが非現実的な確率によって相殺されてしまう。
宝くじは数字の振り子を利用して、購入者の感覚を麻痺させているのではないでしょうか。
手軽さと公平性
宝くじは純粋に運要素だけの賭博です。ここら辺は考える要素のある競馬や攻略法がある(?)と言われているパチンコなんかとは若干異なっています。
宝くじの必勝法なんて誰も探したりしませんからね。そもそも1回当たれば十分だし。
自分で工夫する要素のある賭博はゲームそのものに深くコミットできるだけに没入感があり、依存性を産みやすいですが、全く工夫する余地のない宝くじのようなギャンブルは依存性が低い代わりに手軽です。
「あの時、あの券を買っていたら……!」なんて思うことはほぼないでしょう。調べてみるとそもそも番号を自分で指定できるものとそうではないものがあるらしいですが、どちらのタイプにせよ、当選番号を知るすべは発表日になるまでないのですから運否天賦であることは変わりありません。
ここに宝くじの人気の秘密があるのではないかとちょっと勘ぐっています。宝くじというのは純粋に受け身のギャンブルで、個人が介入する余地がありません。だからこそ、良くも悪くも公平なのです。
競馬やパチンコにおいては、初体験の人よりも玄人の方が勝ちやすいです。なぜなら、今までの経験を生かすことができるからです。これは素人と玄人の間に情報の隔たりがあるので公平とは言えません。
一方で、宝くじは初めてくじを買った人と何回か券を買ったことがある人の間に優劣はありません。何回買っても全く蓄積されるものがなく、あくまで個別の2000万分の1を回しているだけなのです。
このような公平性をいいととらえるか、悪いととらえるかは人それぞれですが(ちなみに自分はこういう公平性は嫌いです)、気軽にかかわれて、かつ誰にでも平等にチャンスが振り分けられるという意味では宝くじは公平を絵にかいたような商品です。
誰もが平等という状況は弱者にとって有利で強者にとって不利な状況です。なぜなら能力の優れた人間にとっては運ではなく自分の力でのし上がれるシステムの方が確実に優位に立つことが可能なのに対し、そうではない人はそれができないからです。
確固たる根拠はないですが、宝くじの購入者と自己コントロール感には相関があるのではないでしょうか。つまり、「この世の中は自分ではどうにもならないことが多い」という考えを持っている人の考えに宝くじのシステムはマッチしているのだと思うのです。
主観強めの意見になってしまいますが「この世は自分ではどうにもできない」という悲観的な世界観を持つ人が一定数いるからこそ、そんな世界観を体現している宝くじが一定数の支持を集めているのでは、なんてちょっと勘ぐってしまいます。こう考えると宝くじって悲しい賭博ですね……
はずれが無意味ではないシステム
宝くじの収益の36%は公共事業に使われているそうです。
このシステムは巧みだな、と思います。前述のように宝くじは当たる人よりも外れるひとの方がはるかに多いようにシステムが作られています。
そのために、無意味な300円のくじが大量に配られるわけですが、収益の一部が公共事業に使われていると喧伝することによって全く意味のないはずれくじがあたかも社会に貢献しているかのような印象を抱かせることができます。
実際には当たるはずのないものを買って、当然のごとく当たらなかっただけなのですが、これによって落選者は意味のない買い物をしたのではなく「社会に再分配」されたのだ、と思い込むことができます。
宝くじを買うのは富裕層ではなくどちらかといえば貧困層に多いといわれています。なので、購入者は富の再配分を「したほうがいい側」ではなく、「されたほうがいい側」にいがちなのですが、皮肉なことに彼らはお金を持っていないのにも関わらずお金を持っている人がとるような行為をしていることになります。
ここらへんの行為の逆転性が宝くじ購入者の隠れた動機になっている……と考えるのは若干飛躍していますが、はずれくじが無意味にならないように見せているためにはずれても安心な設計にしているのはシステム設計の妙でしょう。
ただし、実際には宝くじは富の分配を行っているのではなく、富の局所性を高めています。だって、多くの人から薄く徴収してそれを少数の人に還元しているだけなんだから。
宝くじ購入者が1年間に宝くじに使う平均金額は26,650円
宝くじが人気な理由を自分なりに考察してきました。
最後に、宝くじ協会が公表している数値を紹介して終わりたいと思います。
なんと、宝くじの購入者が1年間に宝くじに費やすお金の平均額は26,650円だそうで、増加傾向にあるそうです。正直、ぞっとしました。宝くじ協会の大本営発表であることを切に願います。
26650円があれば、おいしい食べ物を食べることも、ちょっとした旅行に出かけることもできます。これは途方もない確率の話ではなく、確実にできます。
どうして、宝くじを買うなんて損な選択をしてしまうのでしょうか。自分なりに考察してきたのに再びわからなくなってしまいました。
そんなところに夢なんてないのに……。