練習シナリオ:一夏の変化

一夏の変化

登場人物

秋元花(26):教師。2年2組の担任
清村一誠(23):新米教師
木村蓮(12):6年2組の生徒。委員長
相原悠斗(12):6年2組の生徒


○成西小学校

成西小学校、全景

○同・職員室

壁の日めくりカレンダーに9月1日と書かれている。
清村一誠(23)が6年3組の出席簿を覗き込んで、唸っている。
清村「うーん」
清村の後ろから秋元花(26)がやって来て、彼の肩を掴む。
秋元「久しぶり、清村先生!」
清村「うわっ! ……(秋元の顔を見て)秋元先生、焼けましたね」
秋元「これ、沖縄土産!」
秋元、清村にちんすこうを渡し、隣の席に座る。
秋元「どったの。彼女に振られた?」
清村「違いますよ! ……久しぶりに児童と合うのが心配で」
秋元「(ため息)そんなことかぁ。大丈夫、大丈夫。1ヶ月そこらでそんな変わらないって」

○同・廊下
廊下にいる児童たちに声をかけながら6年2組の教室に向かう秋元。
6年2組の扉の前で一旦立ち止まり、扉に手をかける。
秋元「おっはよー!」
教室の中にはスーツを来たサラリーマンが30人、背筋をぴしっと伸ばして座っている。
サラリーマンの視線が一斉に秋元に集まる。
秋元「……っ失礼しました」
秋元、後退りし、教室の扉の上を見る。
プレートには6年2組と書かれている。
秋元「……?」
呆然とする秋元に、教室の中にいたサラリーマンの1人、木村蓮(12)が近寄ってくる
木村「いやぁ、秋元先生。久しぶりです! 焼けましたね」
秋元「あの……」
木村「嫌だなぁ。もしかして僕たちのこと、忘れちゃったんですか?」
教室の中から「そんなわけねぇだろ、委員長!」とやじが飛び、笑いが起きる。

○同・教室
秋元が教壇に立っている。
秋元「そ、それでは朝の会を始めさせていただきます」
一同「……」
秋元「相原悠斗く……さん」
秋元悠斗(12)が手をあげる。
相原「(大きな声で)はい!」
秋元、声の大きさにびくっとする。
秋元「次は……」
木村「先生! 朝の回でいちいち点呼をして出席確認をするのは非効率なので、教室にタイムカードを導入してみるのはいかがでしょうか」
相原「(メガネを掛け直し)木村くん、タイムカードではなく、扉付近にIOTカメラを設置し顔認証で出席を管理したほうがコストがかからず、かつ他システムとの連携も容易でメリットが大きいと僕は考えます」
木村「なるほど。考慮してみる価値はありそうですね。システム導入の費用については6年2組のメンバで見積もりを立て、後日書面にて提出します。よろしいでしょうか、秋元先生」
秋元「……」

○同・職員室
清村が書類を作成しながら鼻歌を歌っている。
背中を丸めた秋元がげっそりとした様子で職員室に入ってくる。
秋元の元に駆け寄る清村。
清村「秋元先生の言うとおりでした。子どもたちは可愛いままでしたよ! ……先生?」
秋元「……舐めてた」
清村「は?」
秋元「子供の成長を舐めてた」
秋元、出席簿をばさっと机に投げ出し、机に突っ伏し泣き始める。